Never can say goodbye

六本木のgeorge’sという店に行くんだ

六本木と言っても乃木坂近く
防衛庁の隅っこの暗がりにある店

たとえば1989年7月
蒸し暑い夜だ

夜遊びの流れで男子2名女子3名
その後のナニかは期待出来ない関係
しかしこの瞬間を愛しく思える関係

途中の自動販売機で千円札2枚を使って
飲みたくも無い缶コーヒーとコーラを1 本づつ買って
ポケットを小銭だらけにして“ジョージ”の前へ

ドアの小窓からチラッと中の様子をうかがう

目配せ

「フン」と根性入れてドアを押し開ける

煙草の煙と共に吹き出るSOUL MUSIC

アルマーニスーツを着たカウンターの客からの一瞥
となりにはボディコンのグラマーちゃん

「ちょっと、お客さんだよ」
「そこ空けてやってよ」

ド迫力ママのひと言

ボクらはアルマーニの向こうがわ
カウンターの中央から左にかけて並ぶ

ビール
バーボンソーダ
珈琲

「コーヒー?」

アルマーニの蔑むひと言

「お客さんだよ!」

ド迫力ママが一喝

そこからだよ

ボクはカウンターから立ち上がり
ポケットの小銭をジャラつかせ
アルマーニとボディコンの背後を抜ける

カウンターが終わったその先にジュークボックス

今は少し前にディスコで流行った恥ずかしいダンスナンバーが流れている

300円3曲のエレガントで完璧な選曲で
この店の空気をボクたちのものに変えるんだ

さらに古くタフなダンスナンバー

まずはボディコンが反応
それに合わせてアルマーニも方を揺らす

ドーナツ盤のB面に隠れた小さく美しいナンバー

ボディコンが聴き入る
「コレ、誰の曲?」アルマーニがボクに訪ねる

その曲が終わり一瞬の沈黙

ジュークボックスからかすかに聞える機械音

“ボン”
レコードに針が振れる

増幅され店に広がるスクラッチノイズ

シンコペーションされた1音から始まるイントロ

4拍を数え

マイケルジャクソンが唄う

Never can say goodbye
No no no no, I
Never can say goodbye

Even though the pain and heartache
Seems to follow me wherever I go
Though I try and try to hide my feelings
They always seem to show
Then you try to say you’re leaving me
And I always have to say no…

Tell me why
Is it so

That I
Never can say goodbye
No no no no, I
Never can say goodbye

結局朝7時までの間に“Never can say goodbye”を3回聴いて
ボクらは席を立つ

すっかり酔いの回ったアルマーニがボクに握手を求めてくる
ボディコンとは軽くハグして「また会おう」とウソを言った

ドアを開けると梅雨明けスグの東京の熱気が吹き込んで
今そこにあった唄をスベテ無かったことにしようとするのだけれど
しかし

サヨナラなんか言えないよ
サヨナラなんか言えない

キミとの痛み キミとの悲しみ
それはキミがキミでボクがボクである限り
けど

ボクの痛み ボクの苦しみ
月灯りとボクの影にキミはサヨナラを言う
けど

ボクはサヨナラなんか言えないんだ

なぜだか教えて?

サヨナラなんか言えない
サヨナラなんか言えないよ

マイケルジャクソンはボクたちの心の中で繰り返し唄い続けてくれていたよ

コメント / トラックバック 2 件

  1. yuske より:

    Georgeってまだあるんだ。
    黒人のようなママに、酔って騒いで怒られた事があるなあ。
    松本はあそこでいつもクラプトンかけるんだよね。ソウルバーなのに。

    Never Can Say Good Byeか。さすがアミーゴ。
    そうだね。

  2. >yuskeさん。
    ダイブ前にママが亡くなって、
    代わりの人が続けていたけど、
    つまんねー再開発のためクローズ。

    今は西麻布の裏の方でやってるみたいだけど、
    どんな感じなのかね?

    あのママの内蔵の中で呑ませてもらっていたように思えた店だからね。

    いすゞ117クーペと一緒に映っていたコドモの頃のマイケルの写真、
    あれは移転しても飾っているかな?

コメントをどうぞ