絵本「とうだい」
ボクが作画を担当した絵本「とうだい」です。
日本傑作絵本シリーズ「とうだい」
斉藤倫:文 / 小池アミイゴ:絵
アートディレクション:柿木原政広(10inc.)
デザイン:西川友実(10inc.)
福音館書店刊 1300円+税
24X26cm、44ページ
ISBNコード:978-4-8340-8289-0
2014年2月に開催した展覧会「東日本」
同タイトルで2度目の開催となった展覧会に、
福音館の編集者Sさんが足を運んでくださり、
展覧会のメインのビジュアルだったカモメの絵を見ながら、
ボクにぜひ描いてもらいたい絵本の原作があると。
その後いただいた原稿のタイトルは「とうだい」
詩人でもある斉藤倫さんの構築した言葉のとうだいは、
ソリッドに美しいものでした。
岬に立った「とうだい」は、
自分のいる場所から見える風景を愛しながらも、
渡り鳥たちが語る世界中の話に驚き、羨ましく思い、
ただそこに立ち続ける自分に疑問さえ感じはじめた。
が、
東日本大震災以降、東北沿岸部のフィールドワークを重ねてきたボクにとって、
利便性だけでは語ることの出来ぬ『その土地に暮らす意味』をさらに深く考え、
絵に反映させてゆけるはずだと思えたストーリーです。
特に、
何度も見てきた福島県いわき市の豊間のビーチから望む塩屋埼灯台の姿を、
そのまま描くわけではないのですが、
震災後の世界を生きる上で必要とされる心象風景として描けるんじゃないかと、
さらに現地を歩き、色彩や空気感を体に取り込み、
斉藤倫さんのとうだいが立つべき足場造りの準備を進めてゆきました。
そんな製作の途中では、担当編集者さんの産休があり、
(この本と年子な無事のご出産、おめでとうございます!)
昨年の夏の終わりには、やまぐちめぐみさんが亡くなり、
彼女が遺した大量の作品世界の奥深さにやられてしまい、
その後の作品整理や遺作展の準備から開催にかけてと
自分の絵を描くマインドが1mmも動かず、
「とうだい」の作画作業は大幅に遅れてしまったのですが、
それでも、
昨年の冬から本格的に再開した作画作業は、
ボクの今までの人生のなかで最も美しく静かな時として、
今となっては思い返されるものになってくれました。
なにより、
息子が小学校にあがる前後での作画作業は、
彼自身、そして保育園で触れ合う元気なともだち、卒園式での涙、
入学式での晴れ晴れしさと、ちょっとの不安、
「はじめまして」のこどもたちの魅せる元気な風景などなど、
6歳の感性を思いっきり浴びた「とうだいくん」を描くことであり、
1つひとつの作業がとても愛しいものでした。
たまに「いいね」とつぶやいてくれる保育の現場に立つカミさんのひと言が、
なかなかの力になってくれたしね〜
その後のデザインの作業でも印刷の工程でも、
実に風通しの良いコミュニケーションのもと、
1mmでもベストなものに近づけてゆこうという
みなさんの情熱を浴びる現場が愛しくて仕方なくて、
なんやかやの遠回りも含め、すべてのことに意味があり、
みなさんから頂いたものを1枚1枚の絵に反映出来た絵本が完成しました。
ボクに今なにかあれば、
「ああ、とうだいの絵の人ね」と言ってもらえるんじゃないかと。
しかし、
今はこの本を必要とされる方に届けなくっちゃです。
みなさん「とうだい」どうぞよろしくおねがいします。