「小さな赤いめんどり」


アリソン・アトリー原作の児童文学の傑作「小さな赤いめんどり」
こぐま社の”こぐまのどんどんぶんこ”シリーズの1冊として刊行されます。

アリソン・アトリー 作, 神宮輝夫 訳, 小池アミイゴ 絵
80ページ:214×152mm / 定価 1,296円(本体 1,200円)
小学校1,2年生から
ISBN 978-4-7721-9064-0
http://www.kogumasha.co.jp/product/568/

ボクは表紙とすべてのページでの挿絵を描いています。
情熱的な編集とデザインをいただき素晴らしい「本」になりました!

この『こどもの手に気持ちよく収まる一冊』を手にされ、
楽しくページをめくっていただけたら幸いであります。

作画の依頼を受けたのが去年の夏の始まるころ。

児童書のベテラン編集の方から「参考までに」と見せてもらった、
やはり神宮輝夫先生訳の1969年に刊行の「小さな赤いめんどり」

表紙と挿絵は油野誠一さんがご担当されていたのだけれど、
やはりそれが素晴らしすぎて、少なからずのプレッシャーを感じつつも、
今の時代に必要とされるものを考えなければと思いました。

さらには、
今の時代の中で「児童文学」の置かれた厳しい現状についても伺いました。

まず、子どもが「児童文学」というジャンルの本を読まなくなった。
(ゲームやアニメ、スマホなんてものの影響も少なからずありますが)

なので、本屋さんから児童文学のコーナーが失われてゆく。

その状況が続いてきた中、目利きのオトナも失われつつある。

児童文学は基本オトナが子どもに与えるものですが、
オトナが「分かる」本を選ぶ傾向になってしまっている。

もうちょっと言えば、
少子化の中、子育ての大変さにフォーカスされた、
親御さんが「共感」する本がチョイスされる傾向がある。

そうなると子どもの本はますます「赤ちゃん絵本」に特化され、
子どもの想像力を信じた余白のある本は片隅に追いやられ、
たとえば大きな商業施設の本屋さんの子供向けのコーナーは
アニメとゲームと赤ちゃん絵本で売り場を締められてしまう。

担当編集者からうかがった話に
ボクの実感を加えて言葉にするとこんな感じです。

それでも子ども達に素晴らしい児童文学に触れて育ってもらいたい!

そのために、初めて児童文学に触れる子どもでもスラスラ読めるよう、
文字の大きさや並びを考え(こくごの教科書で慣れ親しんだものに近づけたり)、
挿絵はストーリーを見失わぬよう説明的であり、
しかし、子どもも想像力に蓋をしない空気感のあるものにする。

この一冊に出合った子どもが、次の一冊に手が伸びる、
本を読む子どもに育ってもらいたい。

編集の現場の方の叫びのような心情に触れ、
ではこの名作と言われるストーリーにどんな絵を添えて行ったらいいのか?

ちょっとくらいの遠まりは恐れず、
コミュニケーションを密に絵の世界を深めてゆきました。

「小さな赤いめんどり」の主人公のおばあちゃんとめんどり、
2人は心を通じ合わせ、会話もします。

人間とニワトリがなぜ?

人間のする仕事にせっせと勤しむ”めんどり”などなど、
不思議なこと、不条理なことがたっぷり詰まったストーリーです。

こういったストーリーの細部に対して「なぜ?」と思い、
「わからない」と遠ざけてしまうのが、残念ながらオトナなのでしょう。

しかし子どもはそこを突き破り、ある意味自分勝手な想像の翼を広げ、
文章の山を飛び越えてファンタージーの世界に舞い降りることが出来るのです。

ただそこでなにを感じるのかは、
親御さんとの日々の会話の豊かさが決定づけるのではないでしょうか?

日々なにげなく目にしたり感じる美しきものを、
自身の実感から湧いた言葉として子どもと交換しておくかぎり、
名作と言われる児童文学は無言で子どもの側にあれば良く、

文学の不条理の世界の中で、お子さんは親御さんとの豊かな経験を増幅させ、
親の思惑を超えた想像力を手にするはず。

それはとても豊かなことだなあ〜

などということを、
実は絵本「とうだい」の制作から「小さな赤いめんどり」の作画作業を通して手にしてきたボクです。

今の時代を生きる子どもが興味を持ってスラスラ読めるよう、
イラストレーターとして培ってきたアイデアを結集させ、

しかし、子どもたちの想像の余白をなるべく広く確保した、
ちょっとやそっとではヘタらない世界を描けた自慢の挿絵です。

なにより、
作画終わった後の編集からデザインの作業、
そして翻訳者である神宮輝夫さんまでが細部をカスタマイズして下さり、
今の時代から未来に向けてベストな本にして下さったこと、
この仕事に関わり誇りに思っております。

で、めんどりさん、
過去に色んな国で絵本にされてきましたが、
きっとボクが一番スタイル良く描いたはず。

赤じゃなくピンクだしね!

うん、長く可愛がってもらいたい「小さな赤いめんどり」なのです。

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